遺跡・仏跡、3組の釈迦三尊像

クローン文化財/3組の釈迦三尊像
3組の釈迦三尊像

法隆寺金堂に関係する文化財の制作は、2014年「別品の祈り一法隆寺金堂壁画」展の壁画制作で始まる。展覧会が始まったほぼ同時期に、釈迦三尊像の制作が、法隆寺、文化庁、東京藝術大学C0I拠点の三者の合意で決まった。実際の制作は富山県と高岡市•南砺市の地場産業組合と藝大C0Iとの産官学連携事業のもと制作されることになった。そして2017年、東京藝術大学大学美術館での「素心伝心」展で最初の釈迦三尊像をお披露目することができた。ただし「素心伝心」展のカタログには、展示された釈迦三尊像の画像は掲載されていない。この像には当時我々が考えるクローン文化財にできることを多く盛り込んでいた。大きなものとして、大光背に喪失したと考えられる飛天を取りつけ、本尊に欠けていた螺髪全部、また白毫をつけ、左右の脇侍を逆に設置した。それは今考えると過去と現在が混在する不思議な造形になっていた。その後我々の中でクローン文化財、スーパークローン文化財の考え方が整理されていった中で、創建当初の釈迦三尊像を復元するという計画が持ち上がった時には、もう1組の釈迦三尊像を鋳造し、それぞれのパーツを組み換えることで、2組の釈迦三尊像を完成させようということになった。「現在」像では法隆寺金堂にある像と同じ状態にした。次に「過去」像では、「素心伝心」展で展示した、螺髪、白毫の揃っている本像、飛天を取りつけた大光背を使い、左右の脇侍を入れ替え、全てを黄金に輝く像にし、最後に螺髪を群青で彩色した。2021年、長野県立美術館の開館展では「過去」「現在」を同時に展示し、違いをお見せすることができた。さて2組の釈迦三尊像ができたことで、次に宮廻の考える「未来」を実現するプロジヱクトが始まった。精神を継承するための未来の文化財=ハイパー文化財とは何か?仏像は本来光によって人々を仏教の精神へと導くものではという命題のもと、姿かたちの見えない透明なガラスによる釈迦三尊像の制作である。当初大手ガラスメーカーとの連携で始まったが、成果の上がらないまま時が過ぎていった。その当時私の研究室に所属する博士課程の学生に、ガラスを使った彫刻をつくる学生がいた。彼が関係していた桐山製作所に問い合わせたことでこの計画は動き出した。実験器具を制作する日本有数の企業であったが、工場としても今までやったことのない造形方法であったため、何度も話し合い、試行錯誤を繰り返すことになった。結果、頭部•手•足は透明度の高いガラス造形で完成を見た。ただし体(着衣)や大光背の大型の部分は現在の技術ではしばらく時間がかかるということで、急遽、透明アクりルで造形することになり、制作できる会社を見つけ依頼をした。ガラスに比べると厚みがあるが、丁寧な表裏両面の研磨により、ガラスとの接合部の違和感をほとんど感じさせることなく完成することができた。最後に当初からあった頭部螺髮を通した光によって天井に映し出された模様が、宇宙を現すという構想も見事に表現されたのである。
(深井 隆)