高句麗古墳群は、2004年に中国東北部に所在する高句麗前期の遺跡とともに世界遺産に登録された、朝鮮民主主義人民共和国平壌市および南浦市周辺に所在する63基の古墳群である。高句麗古墳群のうち、壁画が描かれているものは16基で、それらの描かれた年代は4世紀末〜7世紀初め頃とされている。壁画が描かれている下地とその主題は、時代の推移とともに、漆喰に人物や風俗を描いたものから、花崗岩に直接描かれた四神図へと移り変わり、墓室の構造も実際に生活した部屋を模したような回廊を伴う複雑なものから、羨道(玄室に通じる道)と玄室だけの単室墓へと変化していった。特に四神図においては、高句麗古墳壁画を一望することで、数百年という歳月をかけて完成され、海を渡り、我が国のキトラ古墳や高松塚古墳に影響を与えたことを推察できる。江西大墓はこれら高句麗古墳群の中の1基で、南浦市江西区域三墓里に位置する。地名の三墓里の名の通り、大墓の他に中墓と小墓の計3基が築造されている。3基のうち大墓と中墓には壁画が描かれ、小墓には壁画は描かれていない。大墓と中墓はどちらも羨道と玄室だけの単室墓で、花崗岩に直接四神図が描かれ、高句麗古墳群の中でも最晩年のものと考えられている。その壁画の表現は非常に伸びやかで力強い筆致で描かれ、高句麗壁画の四神図の中でも最高傑作といえるだろう。現在の古墳内は壁画保護のためにガラスに覆われており、迫力のある筆致で描かれた四神を直接一望することがかなわない。我が国の文化との関連も指摘されるこの貴重な壁画を展示可能にすべく、クローン文化財の制作が行われた。